研究概要 |
本研究の最終年度となる今年度は,初年度より継続してきた各文芸様式と結びついた文体論的特徴に関する基礎的な調査に立脚しつつ,昨年度から開始した個別作品についての研究成果の発表を進めた.そのために必要となる文献資料を科学研究費補助金を用いて収集した. ローマ文学の分野では,研究代表者大芝による論文「キケローのカルウゥス批判--「アッティシズム」の一断面:iudiciumをめぐって--」が発表された.これは,元来修辞学の分類における発想や配置に関して問題とされたiudicium「判断(力)」がこの論争において文体論に適用されていることを指摘し,キケローの弁論術書,特に『ブルートゥス』と『弁論家』に即して,いわゆるアッティカ風弁論家たちとキケローの間における文体に関する論争点を解明する論考である.さらに大芝は平成15年9月14日に当研究機関で開催されたPhilologica研究会において「ホラーティウス・ノート」と題する口頭発表を行った.この発表においては,ホラーティウスの三作品(Carmina 2.14,3.4,3.5)について,写本伝承上の難点を含む箇所を取り上げ,文体論・叙述技法的な観点から当該箇所の読みと解釈について実証的な検討がなされた. ギリシア文学の分野では,研究分担者佐野による論文「セーモーニデースの『女の種族』(fr.7 West)----ヘーシオドス『神統記』,『仕事と日』との比較----」が発表された.この論文では,イアンボス詩『女の種族』と,その手本となったヘーシオドスの叙事詩『神統記』と『仕事と日』との関係を,内容・措辞・修辞技法の観点から検討した.また佐野による論文「『オデュッセイア』におけるフェニキア人」では,叙事詩『オデュッセイア』における登場人物による物語の中でのフェニキア人の描写について,叙述技法の観点から検討した.さらに,ギリシア文学史の啓蒙書『ムーサよ,語れ--古代ギリシア文学への招待』に佐野が寄稿した「ホメロス『オデュッセイア』----叙事詩と民話を結ぶ英雄」および「ピンダロス----祝勝歌における人間の栄光と限界」には,古代ギリシア叙事詩と抒情詩についての本研究の基礎的調査の成果が反映されている. 三年間の研究を通じて,文芸様式と結びついた文体論的特徴の解明に立脚した作品論研究の有効性が確認されるた.さらに今後の展望として,本研究を発展させるために原典の批判的分析を加味することが新たな課題として設定された.
|