本研究においては、西洋古典文学作品における文芸様式と様々な文体論的特徴との結びつきの解明に立脚して、個別作品における具体的事例を実証的に分析・考察することを目標とした。まず各種叙述技法および作品論に関する研究文献を調査・購入し、従来の研究動向の把握につとめた。また各作品についての文献学的調査のために校訂本・注釈書およびCD-ROM検索ソフトを活用した。これらの基礎的調査に基づいて文芸様式と文体論的特徴との結びつきに注目した作品論研究を進めた。その直接的・間接的な成果は大芝芳弘「キケローのカルウゥス批判-アッティシズムの一断面:iudiciumをめぐって-」および佐野好則「ホメロス『オデュッセイア』-叙事詩と民話を結ぶ英雄」、「ピンダロス-祝勝歌における人間の栄光と限界」、「『オデュッセイア』におけるフェニキア人」として発表されたが、さらに特に本研究の主たる成果として次の二点の論文を研究成果報告書に収録した。大芝芳弘「カルウゥスとカトゥッルス(2)-カトゥッルス第50歌-」は、学識と諧謔を重視するカトゥッルスの詩作理念と詩友との友情を語る詩自体が、まさに彼らのその詩作理念を実践する形で作られていることを、その文体論的特色に着目しつつ論じている。また佐野好則「セーモーニデースの『女の種族』(fr.7 West)-ヘーシオドス『神統記』、『仕事と日』との比較-」は、イアンボス詩『女の種族』とその手本となった叙事詩『神統記』および『仕事と日』との関係を、その内容面と同時に措辞・修辞技法等の文体論的特徴の観点から検討した論考である。具体的な作品に即した以上の諸論考において、文芸様式と文体論的特徴の結びつきを実証的に明らかにするとともに、それに基づいて作品論研究に新たな視点から光を投ずることができた。この研究成果を足がかりとして各種叙述技法に注目した作品論研究を継続するにあたって、その基礎となる原典の批判的分析を特に重要視することが今後の課題として設定された。
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