これまで二年間にわたる「新聞小説の国際比較」研究の中間的成果は、2003年一月の『文学』(岩波書店)に掲載された論文「世界の新聞小説の歴史をめぐって」、および、Book History6号(ペンステイト大学、2003年11月出版予定)において詳しい。世界の新聞小説を四地域(フランス、日本、アメリカ、イギリス)に分けて、地域ごとの第一資料、第二資料の調査、研究を行い、四地域に共通する主要な問題、つまり、首都、および、大都市と地方の新聞小説発行の関係、海外向けの小説配給業の発生と拡大、外国小説の翻訳掲載、そして、国際著作権法の発達の四点について、地域同士の特徴と、その共通性と相違を深く掘り下げることができた。新聞小説発行の形態において、フランス、日本は首都、大都市を中心とした「中央中心的」なものであり、たいして、アメリカ、イギリスは地方紙を配給業がつなぐ「脱中心的」なものであること。19世紀末期に始まった小説を海外に輸出する配給業は、世紀の最後の10年に大きな拡大し、四地域を繋ぐだけでなく、それぞれの植民地や属領にもその活動の手をのばしていること。海外からの小説の輸入にかんしては、アメリカ、日本においては盛んであり、フランス、イギリスはほぼ自給自足的であったが、外国語小説の翻訳は、フランス、日本において盛んであったこと。配給業の拡大、小説の翻訳の一般化にともなって生じた国際著作権の問題については、フランス、イギリスがその設立と著者の保護に積極的であり、つづいて、日本も追随し、アメリカが消極的だということ。こうしたことが、これまでの成果の大変大づかみな内容であり、最終的成果は、2005年出版予定のNovels in Newspaper(トロント大学出版)を参照されたい。
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