まず第1に、所有権の前提として権利全般についての心理学的研究を概観した。メルトンの研究では、権利の心理的発達がタップの認知発達的な法的発達図式に一致することが示され、いくつかの政治的社会化研究では、青年後期には多数決によっては奪われないものとしての権利という概念が生じ、功利主義的な権利観からの脱却が見られることが示された。第2に、所有権の心理学を70年代からほとんど孤立して行っていたファーバイの研究を概観整理した。そこでは子供が観念する所有の意味と定義、始期と終期などが面接調査によって探求され、所有権の感覚が心理学におけるエフェクタンスと結びつけて理解されていた。さらに、ファーバイの研究から、所有権の心理学については、所持・所有行動に焦点を置く研究と、概念学習に焦点を置く研究の2つの方向があることが示された。それに従い、第3にいくつかの所持・所有行動の研究を概観した。それらによると、子供はかなり早い時点(場合によっては2、3歳)から先占尊重ルールを獲得していることが示されている。また、権利付与のルール獲得においては親の直接の教え込みは余り意味を持たないことも示されている。第4に、概念学習としての所有権概念の学習についての研究の可能性について探った。既存のこの分野の研究には概念学習という枠組みそのものがなく、社会的概念の獲得の1つとしての売買などの研究にとどまっているが、そこでは例えば、売買可能な対象として、幼少期には大きいもの、動かないもの(家など)があげられているが、小学校高学年ではほとんどのものが売買可能であると認識されていることが明らかにされている。第5に、日本の一部の所持・所有行動の心理学的研究では、川島武宜の所有権論、法意識論に言及しつつ、所有権の抽象性が重要であること、その反面、近代法の文化的相対性に配慮しなければならないことが述べられていた。
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