本年度は子供のもつ所有権の概念(インタービューによって得られた結果)を整理するとともに、それを法意識論、権利意識論と結びつけて理解することを試みた。所有の意味と定義、始期と終期、ものの貸借と関連する子供の発話から、大きな枠組みとして、所有権の意識は次の3つの側面に分かたれることが理解された。第1に心理学におけるエフェクタンス、コンピテンスと関連する領域であり、それは子供の持つ自我と関連し、いわゆる所持行動の研究結果と整合的である。また、この側面はロック、ヘーゲルなどの哲学的な自己所有権論の心理学的基礎ということもできる。第2に、認知発達の側面であり、認知の枠組みとしての権利の概念の獲得であるこの領域は子供の一般的な社会的概念の発達と基本的にパラレルであり、認知発達的アプローチでもっともよく説明される部分である。この側面を通じて、所有権の発生原因(たとえば売買)と所有権の意識が結びつくことになる。川島の権利意識論では必ずしも明示的ではないが、権利意識のこの側面の重要性の認識に到達していたように思われる。第3は、禁止規範(他人のものを勝手に使ったりとったりしてはいけないという)の内面化という側面である。この側面は子供の一般的な規範内面化の一つのプロセスということになる。第3点は、家庭内で行われる明示的な社会化という点では重要であるが、これだけでは権利意識の積極的側面を説明できない。そして、ある程度年長の子供の持つ所有権意識(上記の三つの側面が統合されたもの)は、成人の持つ所有権意識の基底をなしており、心理学で言うところのいわゆる所有権についての素朴理論を構成している。また、付随的に、所有権意識についての文化的なバイアスについても留意すべきことが認識された。
|