所有権は我々の社会生活においてもっとも基礎的な社会的概念である。本研究はファーバイらの先行研究をふまえ、単なる所持と区別された所有権という社会的概念の発達を取り扱った。方法としては、16人の5歳児および6歳児に面接を行い、所持と所有の意味と定義、所持と所有の始期と終期、所持と所有の根拠、所有の根拠と金銭の支払い、所有の正当性と分配の公正などを尋ね、そのナラティブを分析した。以下のような知見が得られた。(1)5歳児であっても、所有の観念がある程度存在する。しかし、彼らのうちの何人かは「所持を失えば所有も失う」ということを述べる。このことは、彼らが、現実の所持と区別された所有の概念を理解していないことを示している。これに対し、6歳児は現実の所持と区別された所有の観念を有している。(2)子供は社会的概念としての売買を理解していて、売買が所有の始まりと所有の正当性についての観念をもたらしているように見える。(3)子供は、金銭・売買・所有の帰属が何らかの形で結びついていることを漠然と理解している。しかし、交付される金銭が、所有権の移転のシンボルとして理解されているのか、それともものとの対価性を示すものとして理解されているのかは判断できない。(4)子供は売買のほか贈与(ものをあげるという行為)を所有権の根拠として理解しているように見える。しかしながら、子供にとっては、贈与は家族間にとってのみ妥当していることのように見える。(5)5歳児は所有の相補性(自己の所有を主張するとともに他者の所有を尊重するという意味での)を十分には理解していない。それゆえ、彼らの所有の主張は自我の強さに起因しているのかもしれない。以上の知見の理論的含意としては、ある程度年長の子供の持つ所有権意識は、成人の持つ所有権意識の基底をなしており、心理学で言うところの所有権についての素朴理論を構成していることである。
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