1研究実施の概要 3ヶ年計画の初年度は、関係資料の收集・分析を中心として、具体的に下記の研究を実施した。 (1)郷宿の一例として、仙台城下の町宿(郡宿とも呼ばれる)関係資料を収集するとともに、その機能を分析した。その結果、この町宿の果たした役割として、民事事件と同様に、もしくはそれ以上に、刑事事件に果たした役割ーその中心はさほど重罪でない犯罪の被疑者の身柄を預ることーを重視すべきことを確認した。 (2)明治3〜4年の関東地方の府藩県に跨る民事事件における公事宿の役割を新史料に基づいて分析した。それによれば、被告の一人は約1年間にわたる訴訟期間のうち191日も各地の公事宿・郷宿に宿泊している。明治初期においても、公事宿・郷宿の機能の第一はあくまでも宿泊施設であることを忘れるべきでない。 (3)『明治十五年・明治十六年地方巡察復命書』を中心として、明治中期の代言人・代書人に対する官僚の評価を分析した。その結果、とくに官僚によって批判の的になっているのは代書人であり、この代書人の出自こそが探求されなければならない。 2得られた知見及び今後の研究方針 これまでの研究では、公事宿・郷宿の機能として、民事裁判における訴訟支援者としての役割が重視されてきた。しかし、その基本的な役割はあくまでも宿泊施設であり、その一属性として刑事事件における被疑者の拘禁施設としても機能した。その代言人・代書人への移行にあたっては、この刑事事件における役割が消滅することが必要である。このことは、これまでの研究ではほとんど顧みられていない。次年度は、この点につきさらに資料を收集したうえ分析を加えたい。
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