ドイツ連邦憲法裁判所は1981年の「砂利採取決定」において、「収用」の存在が認められるのは、収用規範には補償についての定めが備わっていなければならないことを要求する基本法第14条第3項第2文の「連結条項」をはじめとする一連の要件が充たされた場合に限られるとして、所有権の内容規定(基本法第14条第1項)の問題と、収用規範(同条第3項)の問題とを厳格に峻別した。これとともに憲法裁判所は、所有権に対する介入を、補償を要する収用と補償を要しない所有権の制約(いわゆる「社会的拘束」)とに二分する(我が国では不動の前提とされている)立場を放棄して、所有権の内容規定による介入においても場合により損失補償義務が発生することを認めた。実際、近時の判例では、とりわけ自然保護ないし文化財保護のための規制立法が所有権の「内容規定」として位置づけられ、しかも損失補償などを通じた利害調整の必要性がしばしば肯定されている。議論の場が、収用規範から内容規定に移されることによって、当事者の利害調整の手法は、「補償」という硬直したものから、たとえば経過規定などをも含めた柔軟なものとなり、その憲法適合性は一般的な合憲性審査基準としての「比例原則」によって判断されることとなる。こうして所有権規制は、収用か否かという硬直した静態的なものから、柔軟で動態的なものへと脱皮してきているのである。翻って日本法上の問題を考えるならば、特別犠牲説に立脚しながら憲法29条第3項直接適用説を打ち出した昭和43年11月27日の最高裁大法廷判決の扱った事案も、旧法下で許容されていた砂利採取業が新法によって不可能となったことを「収用」にあたり得るとしたのであって、所有権規制の時間的変化が実は問題の核心であった。それゆえ、ドイツ憲法上の所有権規制の動態的把握は、日本法にとっても極めて示唆に富んでいるのである。
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