本研究は、報告者が構想してきた『開発法学』の体系構築をめざして、その経済開発と法の主要部分であるアジアの市場・組織・法に関する集中的検討を課題とした。このため、インドなどアジア各国で会社法と競争法に関する資料収集と調査を行うとともに、オーストラリア、スペイン、オランダおよびイギリスでの会議出席等により開発法学をめぐる方法論の検討に努めた。 3年の研究の結果、アジア開発途上国の経済法制は、グローバル化の流れの中で、IMFや世銀などの指導により急速に「市場」モデルに傾斜しつつあるとはいえ、いまだ開発途上国としての「開発」に関わる指令システムの要請とともに、非西欧的な文化的伝統を基礎とする共同システムも根強く存在しており、公式法制度の改革(市場化)にもかかわらず、指令と共同という2つの要素は、これからもアジアの経済開発と法のあり方を特徴づけていくであろうことが明らかになった。開発法学の課題は、これら3つのシステムを調整しながら最適の経済システムを構築することである。この3法理的視点は、この研究の方法論的枠組みとされてきたが、市場システムの急激な導入をめぐる法現象をみるならば、これに加えて、「規範としての法」、「制度としての法」および「文化としての法」という3層構造的理解が不可欠であるということが、新しい知見として得られた。
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