研究実施計画に従って、今年度も各地の図書館・史料館等に架蔵されている未公刊史料を採訪調査し、また設備備品費により古書店等を通じて史料・文献類を購入することにより、江戸時代における法実務の実態を窺うべき史料の蒐集に力を注ぐとともに、初年度及び第二年度に蒐集した史料も含めてこれらの整理・分析を進めた。今年度蒐菓した史料に基づき新たに得ることができた知見ならびに発表した成果のうち、主なものは以下の通りである。第一に、近年マイクロフィルム化され公開が進みつつある江戸東京博物館所蔵「石井コレクション」の中から、近世実務法学の一つの水準を示す体系的法実務書たる「目秘」、残存するものが少ないとされる京都町奉行所の法実務を窺うべき「武辺大秘録」、神田松永町の江戸宿紀伊国屋利八が作成した「公事訴訟公用留」など、多数の貴重史料を見出したこと。第二に、これまであまり研究に利用されていない国立公文書館所蔵「多聞櫓文書」により、江戸幕府御赦制度の運用実態の一端を明らかにしたこと。第三に、江戸幕府相対済令の目的や意義を困窮武士の一時的救済に求める近時の所説に対し、一連の経済・金融政策との連関、都市の性格、金融市場のあり方等を考慮する必要があることを指摘し、吉田正志氏の論文に対する書評の中で述べたこと。なお今年度は研究計画の最終年度であるので、三年間の研究成果を報告書にまとめる作業を行ったが、その一端を「幕府法曹と法の創造-江戸時代の法実務と実務法学-」と題し國學院大學日本文化研究所主催公開学術講演会において発表するとともに、これを活字化して公表した.
|