研究概要 |
1 江戸時代、奉行の下にあって法実務に従事したのは評定所留役,町奉行所与力などの役人であった。彼らは実質的な裁判官として、おおむね先例に基づく裁判を行い、判例集や多くの法実務書を作成した。彼らの日常的業務に関する史料を蒐集し分析した結果、得られた主要な成果は以下の如くである。 (1)江戸時代の法実務においては、西洋の理論的法律学とは異なるが、「実務法学」と呼び得るような法的処理の技術・論理の体系が存在したのであり、そのような経験的技術の蓄積が明治以後の西洋近代法継受を容易にしたと考えられることを明らかにした。 (2)1738年から1787年までの幕府評定所の公事訴訟数、1715年から1727年までの大坂町奉行所の公事訴訟数1711年から1725年までの大坂町奉行所の刑罰数、1863年から1867年までの三奉行所の刑罰数等の司法統計を作成し、江戸幕府裁判制度の実態の一端を明らかにした。 (3)江戸時代の法実務及び実務法学のあり方をよく示す史料として、大坂町奉行所与力八田五郎左衛門が作成・所持していた法律書のうち、(1)「八田氏所蔵公用書物目録」・(2)「大坂御仕置覚書」・(3)「御役所諸事取計相改候品覚」の3点を翻刻した。(1)は法曹役人が自分用に所持していた法律書の種類や数を知り得るもの、(2)及び(3)は大坂町奉行所における民事裁判法の発展、とくに延享2年(1745)の改正について詳細に知り得るものである。 2 今後はこの成果を更に発展させ、判例法・法実務・実務法学等を含む「法曹法」の発達史という観点から、研究を展開する予定である。
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