1.刑事手続上の人権。昨年度の研究により、現代ロシアで最も重要な人権問題は、被疑者・被告人のそれであることが明らかになったので、今年度はこの問題を中心に研究した。その重要な素材となるのは、憲法裁判所の判決である。ソ連崩壊後ロシアの憲法裁判所は、刑事手続上の人権問題に関してちょうど50件の憲法裁判を行い、27件の違憲判決を下した。それにしたがって刑事訴訟法典の部分改正が積み重ねられてきたが、それは2001年末に制定された新刑事訴訟法典によって集大成された。そのなかでも特に重要な問題を3点あげると、(1)弁護人依頼権。社会主義時代には制限が多かったが、現在では身柄拘束後直ちに弁護人を依頼できるようになった。(2)勾留決定権。社会主義時代以来、勾留の決定は検察官が行ってきたが、現在では裁判官が行うことになった。(3)陪審制度。憲法は陪審制度を予定しているにもかかわらず、その導入が遅れていたが、2003年に全面的に導入された。このように制度上は大きな改善がみられるが、実際の運用の上では問題は残されている。 2.その他の人権。(1)信教の自由。信教の自由については既に論文を書いたことがあるが、その後の状況を研究した。教会の土地所有権の問題(土地所有権は認められていない)、カトリックとロシア正教会の対立の問題などを明らかにした。(2)土地所有権。2001年に新土地法典が、2002年には農地取引法が制定されたので、その内容を明らかにした(翻訳も)。農地については大きな進展はないが、都市用地については私有化の進展が予想される。(3)労働権。これは当初予定外であったが、2001年末に新労働法典が制定されたので、研究対象とした。社会主義的な「労働権」(失業の解消)が「労働の自由」(強制労働の禁止、働かない自由の容認)に転換し、有期契約の問題など、西欧諸国と共通の問題が生じていることを明らかにした。
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