1991年の社会主義の崩壊前後の時期に、ロシアでは人権宣言が発せられ、西欧型の人権概念を受容した。1993年制定の現行ロシア憲法は人権オンブズマンの制度を設け、人権オンブズマンは、人権の保障状態を監視し、市民の苦情を受け付けて対処する活動を開始した。その報告書によれば、自由権の保障は前進し、社会権の保障は後退、刑事手続上の人権は改善は見られるものの旧態依然たる点が多い。言論の自由などの精神的・政治的自由については、検閲制度が廃止され、マスメディア法、良心の自由法、結社法、集会・示威運動法などの一連の立法によって自由権の保障は大いに前進したが、一方で新興財閥によるマスコミ支配、他方でそれと対決姿勢を示す権力によるマスコミ統制の強化という問題が生じている。刑事手続上の人権保障は後れていたが、最近憲法裁判所が旧刑事訴訟法典の約50の条項を憲法違反と断じ、以後大いに改善がみられた。例えば従来は被疑者の勾留決定は検察官が行っていたが、裁判官が行うよう改められた。社会権の保障は後退し、市場経済化の過程で貧富の格差が拡大し、貧困層の増大、ホームレスの激増などの社会問題を生みだしている。このように現代ロシアの人権状況は、社会主義から資本主義への体制の転換に相即した状態を示している。そして西欧型人権概念そのものに異を唱える人々は減少したが、言論の混乱の中で、検閲制度の復活を支持する市民が76パーセントに達する(2004年調査)というのがロシアの現状である。
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