論文「日本「近代法」における民事と商事」は、前編「ナポレオン法典におけるcivilとcommercial」(清水誠先生古稀記念論文集『市民法学の課題と展望』日本評論社、2000年)をうけ、日本近代法における民商二法の関係の特質を解明した。古典的近代法たるフランスの民法典と商法典とは、原理において、質的に異なるものであった。前者は市民のためにつくられたものであるのに対して、後者は商人のためのものであった。これに対して、近代日本においては、民法の商化が進行し、民法が商法の性格を帯びることになった。 論文「法秩序の一九世紀」は、旧民法典の起草者であるボアソナードと、明治民法典の起草者の一人である穂積陳重の法思想を論じた。ボアソナードは、ナポレオン法典を規範として、民法は商人のためではなく市民のために立法されたものであること、その目的の一つは、貧しい者の生活の安全を保障することにある、と考えていた。それとは対蹠的に、穂積は、市民は弱肉強食の世界に生きているのであり、民法は競争社会における勝者たる富める者のために、財産の安全を保障することを目的とするものである、と理解していた。 以上、二つの論文において、日本近代の民商二法の関係は、古典的近代法におけるそれらの関係と質的に異なるものであったこと、古典的近代法の基礎にある経済社会は前資本主義社会であったのに対して、日本近代の民商二法は資本主義経済を形成するため作られたものであったことを論じた。
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