研究概要 |
本研究の目的は,環境保全法体系におけるコモンズの意義を理論的に構成する環として,北米・カナダにおける先住民コモンズの実態を踏まえ,その根底にある土地倫理の意義を現代環境法論として再構成することにある. 初年度である13年度は,本テーマの基本的資料の収集を行った.特にトロント大学を足場にカナダ・インディアン,イヌイットについての資料収集を行い,また「自然資源と開発」シンポジウムに参加するなどして当テーマに関連する理論状況を把握し,特にカナダにおける当テーマの分析課題を明確にすることができた. インディアンやイヌイットについても1970年代から土地補償問題と土地請求問題が展開し,それとのからみで自治政府や共同体的自立の要求と共に開発や自然破壊への先住民の対応が複雑な形で展開している.アメリカと違って居留地政策を取らなかったカナダでは,先住民の土地所有や土地慣習が独自かつ曖昧な形態をとりながら,法制度としては,ニュージーランド・マオリの共同体的土地所有・土地慣習ほどに近代法に生かされることがなく,逆にオストラリア・アボロジニの家族的土地所有・土地慣習のごとく一方的な剥奪の憂き目にあったのとも異なる. ただ,この展開と構造は,広域的な地域での概括的な理解だけでは正しく理解し得ない.さらに小さな地域(土地請求も広域的な場合と小規模な場合がある)の調査分析を行い,インディアン自身がコモンズ的土地所有権をいかに理解し,そこにおける土地所有と土地利用の関係を明らかにし,そのうえにたって,先住民土地政策(と自治政策)を問いながら先住民コモンズの環境保全上の意義をとらえ直すことが必要である.
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