研究概要 |
北米的想像力をかきたてるカナダの自然は過酷であり,そのコモンズの理解には自然の大局的な厳しさが基本になる。ヨーロッパで展開してきたコモンズ論は,いわば人間と自然との相互関係を表現するが,北米カナダのコモンズはその相互関係の前提として過酷な自然に対抗してきた先住民の「過去」の権益の問題である。1982年憲法35条の「現存する」先住民権に承服しない先住民の姿勢は,文明化と合法化による包括的な「大自然」(領土)としてのコモンズの侵害に向けた北米カナダ先住民のコモンズ観を示している。 それがゆえに,アメリカに比べカナダの先住民政策は今も曖昧である。本研究の視点である環太平洋コモンズ論からする,ニュージーランド・マオリ,オーストラリア・アボリジニーの中間的な北米カナダ西海岸・インディアンの位置づけも,その反映である。 本研究によるケース・スタディの一例を挙げよう。日本の約半分の土地からなる森林資源を中心に狩猟・採取生活を行っている(7400余箇所)ブリティッシュ・コロンビアのセクウェップムゥ民族のネコンリス・バンド(生産・狩猟を行う数十家族集団)は,現在日本企業によるスキー場開発に対して争っている。それは,カナダ先住民に関する画期的なニシュガ訴訟の1973年連邦最高裁判所による,デネー(先住人間)の土地所有権への見直しに込められている「大自然」への包括的権利を意味する。1967年以来のデネーの回復を担ったB・Cインディアン指導者ジョージ・マニュエルの息子アーサー・マニュエルの言によれば(昨夏バンクーバーでインタビュー),それは単なる土地回復や補償の争いではなく,カナダ「大自然」の水質など環境破壊への問題提起でもある。カナダでも特に州の環境政策の矛盾が,個々開発ケースについての訴訟による,環境保全に向けた「大自然」としてのコモンズの見直しを余儀なくしている。(中間報告)
|