本研究で、北米カナダにおける先住民とそのコモンズの態様がいかに変化し、逆に先住民コモンズが現代の環境問題の解決にいかに寄与しうるかについて検討した。図書、論文のほかに未刊行文書や現地調査による生の資料によって具体的かつリアルなケースについて多く分析した。諸開発がひき起こすクリー族の包括的士地請求問題や環境・公害問題、あるいはアルバータ州北西部ルビコンレイクインディアン地区における保留地・自治領の設立問題などが、先住民コモンズの解体と同時にそれを契機とする土地紛争や訴訟による先住民権の回復や経済復興に連綿している。とくに、本研究の主フィルードであるブリティッシュ・コロンビア州セクウェッブムインディアンのネコンリス・バンドと林地開発ケースにおける1973年連邦裁判所による土地所有権回復は、現在における先住民コモンズの土地請求権が先住民自治権に関する問題だけでなく、先住民の「知恵」を環境問題に関連して評価する国際的課題であることを示している。また、環太平洋先住民(オーストラリア・アボリジニ、ニュージーランド・マオリ、及び南太平洋諸島先住民)の展開として、カナダ太平洋インディアンや北米イヌイットの森・海・川の自然保護に関する法ケースが、環太平洋における先住民権の現代化における合意形成過程を導き、その際先住民とそのコモンズが重要な要素になることを示唆した。
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