本研究は、行政機構内部における紛争の解決にあたって裁判所がいかなる役割を果たすべきかという問題を、比較法的に検討するものである。本年度は、昨年度に引き続き、主としてドイツにおける国地方自治体間の紛争解決に関する歴史的検討を行った。 前年度までの研究成果として、第二帝政期には、(1)基礎自治体たるゲマインデを固有権をもつ主体として捉える見解、(2)国家機関として捉え、国との間に争訟を認めない見解、(3)広義の国の機関だが、国とは権利義務関係に立つと考え、争訟を肯定する見解が存在したが、(3)がヴァイマル期に通説化したことを明らかにした。 本年度は、昨年度実施したドイツでの現地調査によって収集した資料に基づき、特に帝国末期から第二帝政期に至る時期の学説を検討した。文献が膨大な量にのぼるためなお研究を完了するに至っていないが、さしあたり次のような知見を得た。(1)帝国末期から三月前期の初期にかけては、ゲマインデを国の下級機関と私的団体の両面をもつ存在と捉える見解が主流だった。(2)三月前期から48年革命期にかけて、ゲマインデを自然権の主体として捉える見解が台頭した。(3)同じ時期に、ゲマインデの独自の政治的役割を強調する見解が出現し、(2)と並んで有力化した。(4)48年以降、法実証主義が主流となるにつれて(2)の見解は衰退し、固有権説に形を変えていった。 残る作業は、本年度の研究を整理した上で、これを前記の第二帝政期の学説史と接続させることであり、その成果をできるだけ早い時期に公表したいと考えている。 なお、本年度は、日本法の研究として、国地方係争処理の制度、並びに、国地方間の争訟に深く関連する司法権概念についての研究を公表している。
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