本研究は、連邦の地方自治法制といくつかの構成主体の地方自治法制および地方自治体の憲章(基本条例)について、それらの制定過程および実施状況の分析・検討を行なうものである。2001年夏に大幅な地方自治法制の改正を行ったモスクワ市については、現地調査による関係諸機関の聞取調査と研究者との討議を行った。 ロシアの研究者の協力もえて基本資料、とりわけ構成主体や地方自治体のレベルにおける基本法令の入手、モスクワに限定されるが、市行政当局、市内の行政管区の行政担当者、地区の区長および行政職員、地方自治を専門とするジャーナリスト、地方自治に関する憲法判例にかかわる憲法裁判所の関係者(元裁判官を含む)、大統領府の地方自治担当者、連邦の上下両院の関連委員会所属議員などとの討議、聞き取りを行った(一部は96年度と昨年度の私費による現地調査の結果を含む)。憲法裁判所の判例の蓄積もかなりにのぼり、立法および憲法裁判などを通じて、地方自治制度の確立へのそれなりの歩みを確認できた。 なお、詳細な検討が必要であるが、93年憲法制定後の立憲主義の確立への過程は、こうした立法(議会の機能の実態化)、憲法裁判所の積極的役割、さらには西欧法文化の移植の効果(外圧)(ヨーロッパ地方自治憲章やヨーロッパ人権条約などへの参加)などによりながら、漸進的ながらも進行していることをうかがわせる。同時に、この過程が2000年5月のプーチン地方制度・連邦改革に見られるように、大統領令による改革の着手、集権化による法治国家建設、中央主導の「地方自治」の制度化など、住民自治に根差す地方自治の発展への契機が弱く、緊張に満ちたものとなっていることがわかる。
|