本研究は、ロシアの地方自治制度の確立過程をこの国における立憲主義の問題と関連づけて分析・検討するものである。その概要はおよそ以下のとおりである。 93年憲法制定後の90年代ロシアは、総体として西欧近代に発する立憲主義を、その現代型変容の段階を迎えた20世紀末に、脱ソビエト化の課題と連動させつつ追い求め、試行錯誤を繰り返した時代と総括することができる。地方自治についても国際的に「地方の時代」に直面する時期にその導入がなされたのであるが、地方自治をめぐっての立憲主義の確立を曲がりなりにも促進させたのは、(1)国際関係、とりわけ条約(ヨーロッパ地方自治憲章、ヨーロッパ人権条約)、(2)議会の立法機能の「向上」、(3)大統領令による「確立」への加速化措置、(4)憲法裁判所等の判例の蓄積、といった契機だったということができる。 ロシアでは、わが国でも最近しばしば論じられる「内発的発展」論を論ずる段階には未だないようである。しかし、核廃棄物処理施設問題などで住民投票がNOの結論を突きつけているという新たな動きや、基層地方自治体が連邦構成主体等の集権的包摂的行政にいわば下から対抗する機運などが刺激となって、自治の内実が成熟していくことも期待しうる状況にはなっている。現在、連邦制改革とも絡んで、ロシアの地方自治法の全面改定の作業が進んでいる。その帰趨はなお不透明であるが、集権と分権の緊張を孕んだ論議が、連邦制のあり方と絡めながら、より論争的な形で進むことが予想される。 現代の立憲主義は、分権化、「補完性原理」を軸においた地方自治の発展をも包含するはずのものであり、本研究を通して、ロシアの地方自治の展開が、立憲主義そのものの確立にも大きな前進的作用を及ぼす可能性があることを確認することができた。
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