研究概要 |
今年度は、ワイマール憲法と同時期に共和制へと移行した隣国、オーストリアにおける憲法と家族法との関係に関する研究を対象とした。日本において、オーストリア憲法研究は少ない。第一共和制のオーストリア憲法は、ワイマール憲法とは異なり、人権規程を留保してようやく成立しており、憲法学の関心を集めにくいからである。このオーストリア憲法の特質については政治史の領域で、細井保『オーストリア政治危機の構造--第一共和国国民議会の経験と理論』がある。オーストリアの憲法学でも、人権論、それも女性と家族の関係に関する研究はない。唯一、憲法研究者Oskar Lehnerによる"Familie-Recht-Politik", Springer-Verlag,1987.(『家族-法-政治』)がある。これを手がかりに、女性史の領域をも視野にいれて検討を進めた。そして第二次大戦直後、女性たちによる家族法改革の動きが存在したこと、しかもこの女性たちの動きは、その後、急速に忘れられたことが明らかになった。70年代に家族法改革が政治課題となったとき、改革を推進した政権政党である社会民主党も、敗戦直後に社民党の女性議員たちが家族法改革に取り組み、大きな政治課題となっていた事実を知らなかったほどである。また党派を超えて、保守党の女性議員も賛同していた。第二次大戦直後、ドイツ・オーストリア・日本(そして沖縄)で、いずれも女性の権利保障として家族法改革が政治課題となった事実が、明らかになった。憲法と家族法の関係は、ワイマール憲法およびオーストリア第一共和制憲法の時期を発端としながらも、第二次大戦直後に、大きく進展した。それはなぜか。そのなかでなぜ、日本は家族法改革を他に先駆けて進展させることができたのか。憲法と家族法との関係を問う作業として、敗戦各国の比較検討が重要な課題として浮上してきえ。次年度の課題である。
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