本研究は、「女性の人権」を憲法史において位置付け、この観点から、日本国憲法24条を検討することを目的とする。「女性の人権」概念は、1990年代以降、女性運動および人権運動によって提唱され、国際文書や国内行政文書に規定されるようになっている。しかし憲法学においては、明確な位置付けを与えられていない。そこで本研究は、「女性の人権」を、「両性の平等」と「家族条項」との矛盾という憲法上の問題として分析する。「女性の人権」は、なにより近代家族像にひそむ女性への暴力から女性を解放することを要請するものだからである。 本研究によって、以下の三点が明らかになった。第一に、両性の平等は憲法史において、家族保護条項と矛盾してきた。ワイマール憲法は、女性参政権を保障すると同時に、家族保護条項を採用している。この両条項の背景には、公的領域における両性の平等と私的領域(すなわち家族圏)における女性の服従との対抗関係が存在している。ワイマール憲法は、女性の権利と家族保護が重要な憲法上の争点となったことを示している。第二に、この矛盾は家族保護を否定する形で解決されるが、この点を明かにしているのが、日本国憲法24条である。24条制定や家族法改正の過程において、家族保護条項は、「男性支配」を克服する観点から否定された。第三に、にもかかわらず、憲法学説や判例は、「個人の尊厳」を男性市民の立場から解釈し、近代家族保護へと傾斜してきた。24条は、特定の家族像の強制を否定する家族条項である。
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