研究対象である、アメリカに進出した日本企業の環境法違反(水質汚濁防止法)に関する裁判が確定したので、今期は訴訟資料の翻訳検討作業を中心におこなった。判決では懲罰的損害賠償の負担と行政刑罰が科せられている。その判決で注目すべきは、日本の親会社の社長が現地法人の代表でもあるが、アメリカでの裁判に出頭し、実刑判決を受けている事実である。そして、当該社長(現地法人の代表者でもある)は収監されたあと、仮釈放による保護観察のもとに置かれたようである。現地法人の代表であるとはいえ、日本の親会社の社長がアメリカの裁判に出頭することが必要であるとされた法的制度の基礎、そして経営上の判断の内容は極めて興味深いものがあり、この点についての検討作業を進めた。さらに、その保護観察中のアメリカ当局の観察形態は極めて厳しく、それが一般的なものなのか、対象者が外国人(日本人)であったからなのかは現時点では不明であり、検討中である。 さて、環境法違反の地域的範囲が一つの州の境界を越える場合、その事件の管轄が連邦政府に移行してゆくことの法的・社会的意義が、本研究の中心的テーマの一つである。この検討作業を今期も進めたが、今期は、現地法人があるA州と、その被害が拡大したB州の、それぞれの水質汚濁防止法の規制内容の差異を析出し、州を超える環境被害を連邦が管轄することの法的・社会的意味を検討した。 研究成果の発表計画に従って今期の成果につき、現在、まず本件研究対象の分析に必要な、アメリカの水質汚濁防止法の基礎構造、環境裁判の制度的特徴、環境裁判に関する州と連邦の管轄関係という点についての、報告書を作成する作業をおこなっている。
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