本研究はフランス第三・第四・第五共和制憲法という3つの現代市民憲法を素材として、国民投票制に関する、憲法理論的、憲法史的な考察を行い、現代市民憲法における国民投票制の位置づけをめぐる憲法理論上の課題を明らかにしようとするものである。 本年度においては、まず、国民投票制に関する我が国における先行業績を概観し、そこでは制度紹介の側面が多く、国民主権や国民代表制といった、憲法原理と関連づけた分析が貧弱であったことが明らかとなった。 次に、フランスにおいて典型的に成立する近代立憲主義の統治構造を確認したうえで、第三共和制憲法下の議会での国民投票制導入をめぐる論議を検討した。市民革命期に登場する国民主権の概念は、必ずしも直接民主制を原理的に否定するものばかりではなかったが、フランス第三共和制憲法を近代市民憲法の「典型」と見なすならば、やはり、近代立憲主義憲法下の統治構造の基本原理である国民主権は、国民投票制等の直接民主制的手続の排除を求めるものであったといえる。その下で、議会では国民投票制の導入や、あるいは、個別案件を国民投票に付託すべきとする提案がくり返しなされるが、憲法の明示的規定がないという形式的な理由で排除されている。 しかし、第三共和制後半期には、第三共和制憲法が、変容・動揺の時代を迎え、統治構造それ自体の変革が主張されるが、その中で国民投票制の導入も提案されてきた。これらの提案は、第三共和制期には実現されることはなかったが、第四共和制憲法制定過程における三つの国民投票制につながっていったと考えられる。
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