研究概要 |
近代国際法のウェストファリア・パラダイムを構成する基本概念が,現代国際法においてどのように変化しつつあるか,またいわゆる実証主義国際法学がその変化に見合う方の解釈適用技術の発展をどのように模索してきたかを次の分野に分けて分析した。第1は領域法の分野である。とりわけ最近の国境紛争・領土紛争における領域支配の正当性と実効性を巡る判例法を体系的に把握するために,ICJ判例,仲裁裁判判例などを集積・分析し,かつ文献を収集した。第2は,植民地主義の問題を取り上げ,西欧の植民地拡張における領土取得と私的所有権の関係について文献を収集し,研究の基礎固めをした。第3は,実証主義国際法論における私人の問題を,国際法と国内法(国家と私人)の相克という観点から検討し,国家と国家の関係の間の灰色地帯に埋もれてきた私人の権利保護,私人の国際秩序形成における役割,国際組織と国家・個人の関係について検討した。第4に近代国際法から現代国際法への法の変化の動態を,実証主義国際法論が国際法の解釈適用論にどのように取りこんできたかを理論的に検討するための基礎的な作業を行い,特に時間の制御のための法概念,衡平の概念,暫定措置制度などについて検討した。第5に,ウェストファリア・パラダイムとの関係で,国際法学ないし国際関係論におけるいわゆる英国学派(典型的にはブルの「アナーキカル・ソサイェティ」)を巡る理論状況を検討し,国際関係における規範現象,とくにいわゆるレジーム論やガバナンス論との関係において,現代国際法における国際関係の法制度化(legalization)あるいは司法制度化(judicialization)について検討し,とくにその一つの現象としての法的紛争解決フォーラムの多様化が,私人を巻き込んだ形でのグローバリゼーションとどう相関し,それが実証主義国際法論にどのような変化を迫り,また国際法の解釈適用における統一性の危機といわれる問題の根源が何処にあるかを探った。第6に,グローバリゼーションのマイナスの側面としての国際組織犯罪に対する国際社会の対応を検討することを通じて,国際刑事協力の現段階を分析した。
|