本研究は、1975年4月から1979年1月までの間カンボジアを統治した民主カンプチア政府(ポル・ポト政権)の下で170万人の犠牲者を出した大量虐殺行為(ジェノサイド)の責任者の訴追と処罰に関する国際法上の問題点を検討することを目的とする。この研究では、長年のプロセスを経て、国連とカンボジア政府との間の合意に基づき、国連の協力を得てカンボジア国内に設置される予定の特別裁判部の設立に至る歴史的経緯と、特別裁判部の内容について検討する。 本報告書は、次のような構成をとる。まず、1章では、ポルポト政権時代の大量虐殺行為がなぜどのように行われたかを検証する。第2章では、ポルポト政権崩壊後後のヘンサムリン政権時代の人民裁判所によるジェノサイド裁判の評価とその後の内戦の時代を振り返る。次に第3章では、パリ和平協定とUNTACの実践のプロセスにおける過去のジェノサイド問題に対する関係を省察する。第4章では、特別裁判部の設置を巡る国連との協議を跡づける。第5章では、特別裁判部の設置協定を中心として、裁判の問題点についても検討する。 以上を通じて、過去のジェノサイドの責任者の訴追と処罰並びに真相の解明は、国際人道秩序の普遍的な確保という側面からだけでなく、カンボジアの民衆に対する修復的司法の実現という側面からもまた重要であることを指摘する。カンボジアが真に民主的な国家として再生して、国際社会に認められるためには、過去の人権の重大な人権侵害行為に対する適正な対処を行う必要がある。また、これに関心を寄せ、支援することは世界各所で同様の行為の繰り返しを避けようとする諸国家と個人の共通の関心事であり責任でもある。
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