本年においては、国際的な企業結合に関する一連の問題の中でも、現在、最も注視されている事項である、外国会社との合併・株式交換の可能性に関する検討に絞って研究が進められた。まずは、我国の国際私法の観点から、国際的な合併や株式交換の抵触法的理論構造の解明作業が行われ、従来、唱えられてきた「内国会社と外国会社との合併・株式交換」は不可であるというドグマは、必ずしも自明のものではないことが明らかになった(その成果は、後掲の二つの論文を通じて公表し、広く学会・実務界からの反応を募った)。 他方で、国際的な合併や株式交換には、他の要素、すなわち、仮に国際私法の理論上は可能であるとしても、そもそも、外国会社との合併・株式交換を試みるような実務上のニーズがないのではないか。仮に何らかのニーズがあったとしても、その最大の特典である税法上の特殊な取扱いがなされなければ、真の意味でのニーズは無いといえるのではないか。また、日本法と外国法の配分的適用により外国会社との合併・株式交換が理論上は可能であるとしても、日本の会社法と整合的に組み合わさるような外国の会社法など、現実には存在しないのではないか。さらに、会計基準や証券規制といった諸規制に関する両国の基準が異なる、あるいは、そうした諸規制が国際的な合併・株式交換といった事象を予定してないがために、現実に多大な困難に直面せざるを得ないのではないかといった問題が明らかになってきた。これらに加え、外国会社がM&Aという局面において差別的に取り扱われていると評価され通商法の原則に違反することになるか否か、紛争処理の局面における国際裁判管轄の問題などが検討すべき要素として浮かび上がってきたため、それぞれの専門家を巻き込んで検討作業を継続的に行った。
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