本研究は、第一に不動産執行において、競落価格がどのように決定されるのか、そのメカニズムを明らかにすることを目標とし、第二にそこで、最低売却価額がどのように作用しているかを明らかにして、民事執行法の制度提案の基礎資料を用意することを目標としている。 本年度の研究作業の到達点は、第一に日本の不動産競売制度を、広く比較法的なパースペクティヴの中に位置づけたことである。特にアメリカ不動産担保法・執行実務との比較検討を通じて、任意売却の理論的位置づけを明らかにした。アメリカの譲渡抵当法においては、一種の処分清算型の換価手続きが原則となっており、動産の価格が自由な交渉によって形成される点で、現在の日本の抵当法上の原則的な換価方式の対極にあるといえる。しかし他方で日本においても任意売却による換価が現実には主たる換価方法であり、司法売却制度は、任意売却のための当事者間の私的交渉の枠組みとして機能しているといえる。この観点からの制度改革の基本的な視点を整理することができた。その際特に、コーポレートファイナンス理論から示唆を得て、決定権移動理論という理論枠組みを得た。 第二に、不動産競売における競売参加者の行動を分析し、競落価格形成のメカニズムを明らかにするために、オークション・ゲームと呼ばれる入札行動の分析に関する理論的な集積を検討した。その結果最低売却価額制度が、競落価格形成にどのように作用しているかを検出しうるモデルの手がかりを得た。それは、情報とリスク特性に関する一定の条件の下で、最低売却価格が、不完備情報ゲームにおけるプレーヤーとしての入札者に情報を与えることで価格を上げる作用を営みうるのではないかという視点である。 しかし、第三に、このようにして作り出されるモデルを実証可能にするために必要な重回帰分析の理論枠組みの修得とその洗練には十分取り組むことができなかった。
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