本研究は、本来、個人または法人単独でなされることを想定していた株式投資が、商事信託制度を代表とするファンドを用いて集団的に行われた場合に、従来からの議決権を中心とする株主権行使において生じうる問題点を検討しようとするものである。 そこでまず、信託形態を利用した集団投資の商品が、その投資先として株式を選択したとき、そこでの議決権行使は現行法上どのような方法で行われるかを整理することから始めた。そして、こうした商品の法形態では、背後に異なる意思を持つ出資者がいることが予想されることから、議決権の行使あるいは不行使に際しては、現行会社法上、議決権不統一行使制度の活用が考えられた。 一方で、具体的な投資形態ごとに、株主権の行使、とりわけ議決権の行使がどのようになされているかを検討すると、年金基金等による株式投資では、基本的には運用益を目指すものであることから、従来は株主権行使にはあまり積極的ではない、という傾向があるものと思われた。そこで、投資形態ごとに、これまでどのような株主行動がとられてきたかを、総会白書等の統計資料をもとに分析し、さらに近時の、株価の長期低迷という状況を受けて、投資顧問業界や年金基金等をはじめとするいくつかの業界団体がとりまとめた議決権行使基準等について、調査・検討を行った。これにより、アメリカ等の年金基金の影響もあって、我が国の基金においてもコーポレート・ガバナンスに対する関心を払わざるを得ない状況になり、内部で議決権行使の基準を作成しつつあることが明らかになった。今後、資金提供者に対する責任として、各基金が信託受託者の株主行動の指針を明確にすることが求められるとともに、その具体的な行動にも注目される状態にある。
|