本研究は、平成11年度〜平成12年度に実施した科学研究費(基盤研究(C))課題研究「イギリスにおける患者の自己決定と司法」に直結して、民事法学的アプローチにより医事法の領域に踏み込み、その具体的焦点を「イギリスにおける患者・医師関係」に据える継続的研究である。本年度は、本研究の初年度(基礎研究)として、イギリス医事法に関する理解をできる限り広い視角から多面的に推進することを目途に立案された。「患者・医師関係」に関する「法のありかた」という根本問題を扱う以上、本研究の実施に際しては、単に民事法領域のみに視野を限定せず、広くイギリス医事法に関する厖大な基本的文献/資料の確定作業から改めて手掛けられる必要があることが自覚された。具体的な検討作業は、イギリス医事法にかかわるあらゆる種類の著書・論文、立法資料、厖大なイギリス判例等の収集・分析の場を、国立国会図書館(法制資料室)・比較法制国際センター(東京大学)など国内の諸施設に求めるほか、ことにCardiff Law School等のイギリスの医事法研究施設に求めて実施された。右文献資料等の精査・整序作業はコンピュータ処理により逐次展開され、イギリス医事法に関する基礎的知見の一応の獲得に帰結された。とりわけ、医師の注意義務の基準、患者の承諾などの古典的テーマのほか、医療情報の開示・活用など、イギリスの現代医療契約をめぐる数多くの民事法的論点につき、一定の基礎的知見を獲得することができた。右成果は、同時に実施されたイギリス以外の諸国における医事法の展開への考究作業と相俟ち、わが国の医事法学への寄与として取り纏められたところである。併せて、本研究成果の一端は、「医療における苦情処理」(九州大学医学部医療システム学・公開講座)への参画等にも示すことができた。これらの基礎研究を踏まえ、次年度において本研究課題の全体像が完結することが期待される。
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