本年度は、アメリカ契約法とヨーロッパ諸国における契約法とを対比し、文献調査を中心にして、契約自由の原則の民法内在的制約と政治的経済的理由による外在的制限の検討をおこなった。 アメリカでは、19世紀後半から20世紀初めの時代の判例法は、憲法の保障する適性手続条項には契約の自由(Liberty of Contract-当事者は法的拘束力を有する合意を結ぶ自由-)が含まれるとし、杜会的経済的規制立法に違憲判決を下した。本年はこの時期の判例の歴史的な分析をした。また、契約当事者の契約締結の自由、相手方選択の自由、契約内容の自由を意味するFreedom of Contractとの関係についても考察を加えた。 ヨーロッパ諸国では、現代福祉国家論との関連性において、契約自由に対する社会的・経済的規制について検討を加えた。北欧諸国では、福祉国家を維持・発展すべきという理論的動向が強く、弱者保護という視点からの契約自由の制限が不可欠とされている。イギリスでは、自由主義的経済体制と福祉国家体制との中間的な「第3の途」を目指す政治的動向があるが、法律学や契約法学への適用を考えようとする傾向はまだあまりみられない。フランスにおいては、福祉国家論的な弱者保護と契約の本質的債務論などの民法内在的な論理による制約とが混合的に存在している。 次年度は現地調査を含んだ研究を行う予定である。
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