本年度は、アメリカ、イギリス、及びヨーロッパ諸国における契約法研究の動向を文献的に調査し、次年度の研究とりまとめの基盤を構築した。 契約自由と契約規制とを考える際、重要な二つの課題がある.第1は、1990年代以降、「契約関係の優越」と呼ばれる状況が生じたことである。20世紀前半から進展してきた、「公平の理念」、「社会的弱者の保護」を理由とする強行法的な契約当事者一方の地位の保護という制度が、契約の自由を国家的干渉によって制約すると批判され、すべての法律関係を契約的に構成する傾向が強まっている。生硬な統制からなる官僚的で恩恵的な規制は撤廃されるべきであるが、同時にどのようにして契約的構成のなかで、「契約における公正、福祉」を実現すべきかが重要になっており、本年度は契約法の基礎理論をこのような視点から分析した。 もう一つの課題は、「契約規制における類型的相違」である。経済制度の比較研究のなかで「資本主義におけるいくつかの型」の存在が明らかになっている。生活に必要なある種の商品は市場の外で供給されるという「脱商品化」という状況があり、脱商品化の型にはいくつかの類型がある。資本主義の型の相違に対応する法的規制の類型性を理論的前提として、本研究は「契約自由とその規制」の類型的な把握に努めた。 この二つの観点から研究を進めた。その一部は別途公表を予定している。なお、現地調査を含んだ研究を予定していたが、時間的な関係で見送らざるを得なかった。次年度はとりまとめの最終段階であるので、理論的関心を同じくする海外の研究者との議論を進展させる予定である。
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