本研究は民法における基本原則である契約自由の原則について、その制限には、民法内在的理由による制約と外在的政策的理由による制限とがあることを研究するものである。その結果の概要はおおよそ以下の通りである。 現代の福祉国家においては、国家は市場経済を前提としつつ、一定の社会経済的目的を達成するために、介入する性格を持っている。どのような理念に基づいて、どのような方法で、どの程度まで介入するかは、当該国家の政治的性質によるが、一般的には、社会福祉サービスの供給における「脱商品化」と、「階層化」とを基準として3つの類型が認められる。 法律学の領域においても、立法や裁判所による介入には、その根拠づけに関して、形式主義的、現実主義的という区分があり、後者は市場個人主義的なものと消費者福祉主義的なものとに細分化される。これは私法社会=市場モデルと社会国家モデルとに対比できる。炉現代市民社会では、契約が社会関係の規律において至上価値を有する。契約自由に関する最近の研究の成果によれば、契約の自由は無制限のものではなく、18世紀末までは衡平を原理とする伝統的な契約観により制約され、契約正義、契約の本性、契約の本質的債務などの概念が契約の内在的制約を根拠づける概念として用いられてきた。 他方、現代福祉国家においては社会経済的地位の弱者に対する保護という民法にとっては外在的な政策的理由による契約自由に対する制限もなされている。内在的制約の場合と外在的制限の場合とでは、その根拠のみならず、規制の法的な手法も異なっている。 ドイツ民法においては、契約内在的な制限は公序良俗違反などの原則により、一般法である民法のレベルにおいて規律され、外在的な政策的理由による場合は特別法による制限として現れる。フランス民法においては、契約の本質的債務、契約の本性、カウザなどの論理により内在的制約が付され、弱者保護の理念による外在的な制限がされている。日本民法の研究においては、これまで内在的制約と外在的制限とを区別して、契約自由原則の制限を議論することは行われてこなかった。本研究は、日本民法においても、この両者の自覚的な区別による検討の重要性を示した点に、意義がある。
|