本研究において、まず、全国商品取引所連合会の研究会などを通じて、各取引所のクリアリングの実態を調査した。その結果、「全国統一のクリアリング・ハウス」構想を実現するには、証拠金や純資産基準などが商品市場ごとの単位で設定され、複数の市場に関わる場合にはその単純合算方式が採られているなど、克服すべき法的障害が少なくないことを確認した。ついで、経済産業省と農林水産省との共催における研究会に参加する機会を得、特に実務サイドから、商品先物取引に係るクリアリング制度の研究に関する多くの知見を得た。具体的には、OTC市場におけるクリアリング・システムの実情や、アメリカの取引所におけるクリアリング制度の運用実態を知ることができたほか、東京工業品取引所と東京穀物商品取引所におけるクリアリング制度をめぐる検討状況を詳しく知ることができ、同時に、商品取引員サイドの問題意識も確認できた。クリアリング制度の最大の問題点は、デフォルト・リスクの回避策と違約処理それ自体にあるが、最近の東京工業品取引所の新構想(本報告書第2編参照)に対しては受託会員の法的地位などに関して若干の意見を述べる機会を得、私見が制度の理論的説明の一部に反映されている。また、クリアリング制度にとってきわめて重要な委託者財産の保全とポジション・トランスファーに関する研究を進め、両制度にとって委託者財産の分離保管が重要な前提となることを改めて確認し、現行のシステムの改善すべき問題の所在と対応策を指摘した(本報告書第1編参照)。このうち、立法論的改善点は、手数料完全自由化による企業間競争の激化を目前にした現下において、可及的速やかに是正すべきであるとの観点から、本研究で得た知見等をもって、先の研究会と現在は臨時委員として参加している産業構造審議会商品取引所分科会とにおいて、意見の披瀝や立法提言を行っているところである。
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