本研究期間中、研究テーマについて申請時の法状況が一変した。特に、平成13年にストックオプションに関する商法の改正があり、新株予約権の有利発行と株主総会の特別決議という手続きに一元化された(商法280条ノ21)。さらに、平成14年には、取締役の報酬に関する法規制も整備され(商法269条)、また、コーポレート・ガバナンスに関しても大幅に改正された。研究は、これらの改正を包括的体系的に理解するために、資料の収集や調査・整理、および外国制度の現状を調査した。外国制度との比較すれば、既述した法改正により生まれた制度は、日本独自のものとなっている。今回全面的に自由化されたストックオプション制度であるが、制度に内在する限界があること、特に付与対象につい問題を絞って検討し、私見の展開に至った。この私見については、大学の紀要である同志社法学に公表する予定であるので、その結論の要約を述べることにとどめたい。商法改正による新制度の下では、取締役に関する報酬規制も報酬内容の実態に沿った規制になっている。しかし、ストックオプションに関する規制は、改正された報酬規制と切り離された新株予約券の有利発行という独自の制度の下で定められているので、多数の見解に拠れば取締役の報酬規制には服さないと解されている。従来のストックオプション制度は、自己株式方式と新株引受権方式の二種類の方式を認め、それぞれの方式異なる内容の規制をしていた。それに対して、今回のストックオプションに関する改正は、ストックオプションの目的と内容が明確となった。つまり、発行会社の株価の上昇を目的とするインセンティブ報酬である。したがって、ストックオプションの目的から発行会社の株価の上昇と無縁な者に対する付与は、制度上認められないという限界が明らかになる。多数説に拠れば、今回の改正による文言の変更は、ストックオプションの対象者が無限定になったと解するが、私見によれば、ストックオプションの明確化によって指摘した制度上の枠付けが存在することになる。このような立場に立つと、結合企業間においては、親会社の株式を子会社の取締役に付与できないことになる。さらに、この結論は、それぞれの会社の取締役が自己の会社に対して負担する善良な管理者の注意義務からも補助的に根拠づけられる。
|