研究概要 |
1 本年度は、複合型の潜在的被害である戦争被害に関して、時効・除斥期間の問題を中心に幾つかの研究成果をまとめることができた。ドイツと日本との比較研究の視点から、近時の訴訟,和解、立法動向を比較し、また、近時の注目すべき日本の裁判動向(国や企業の責任を肯定し、研究代表者が従来から主張してきた時効・除斥期間の制限論を肯定する判決例の出現など)について検討を加えた。これらの研究成果は、後掲の「戦後補償の日独比較」「戦後補償訴訟・和解・立法提案の近時の動向」「戦後補償訴訟の新展開」の論稿として発表した。とくに、最後の「新展開」の論稿は、研究者がいまだ正面から論じていない近時の判決を取り上げ、戦後補償訴訟で初めて除斥期間を排斥した劉連仁訴訟判決や、国の安全運送義務違反を認めた浮島丸訴訟京都地裁判決、企業の不法行為に関する除斥期間の適用や時効の援用を制限した福岡強制連行訴訟判決など、弁護士からのヒアリングの成果もふまえて、詳細な分析を試みている。 2 その他潜在的な人身被害であるじん肺訴訟の問題やハンセン病訴訟で最近の注目すべき判決例を分析する論稿を発表した(前者については、後掲の「じん肺訴訟における消滅時効の起算点と援用制限」、後者については共著『ハンセン病問題』)。また潜在的な人格権侵害であるセクシュアル・ハラスメント問題について学術会議で報告、法律雑誌で職場環境配慮義務と大学の教育研究環境配慮義務を総体的に論ずるなどの成果を挙げた。これについては、後掲の「セクシュアル・ハラスメント」「キャンパス・セクシュアル・ハラスメントと大学の法化」論文で論じている。
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