1 潜在型被害で問題のなることの多い、不法行為責任を理由とした損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、最高裁の新しい判決(平成14・1・29)をふまえて、従来の判例・学説、ドイツの時効法改革も踏まえた新たな起算点論(規範的認識時説)の提言を行う研究論文・判例批評を数本まとめた。 2 潜在型被害のうち性的人格権侵害の問題であるキャンパス・セクシュアル・ハラスメント、PTSD被害について、それぞれ大学の債務としての教育研究環境配慮義務、損害論・時効論に着目した研究論文をまとめた。 3 潜在型被害のうち財産的被害であると同時に安全で平穏に居住する権利の侵害でもある欠陥住宅被害について、請負契約上の瑕疵担保責任に基き建替費用相当額の損害賠償を初めて認めた最高裁平成14年9月24日判決をふまえて、次に課題となる居住利益控除論や建物減価償却費控除論などの損害調整論、慰謝料論について、裁判例の詳細な分析を行い、控除否定論、慰謝料における居住不利益要素の適正評価などの新たな提言を行う論文を発表した。 4 総合的な潜在型被害である戦争犯罪被害にういては、ドイツで文献・資料を収集するとともに、近時の戦後補償訴訟における時効論・除斥期間論の現状と課題を分析する論文を発表し、また、戦前の「国家無答責の法理」について、明治憲法、行政裁判法、裁判所構成法、旧民法典、明治民法典の立法過程での国家賠償責任をめぐる立法史と議論を分析し、当時は必ずしも判例・通説が指摘してきたような「国家無答責の法理」を実現する法制度の確立はむしろなく、また、民法典起草者たちは、官吏の不法行為について国家が賠償責任を負うことを当然視、原則視していたこと、国家がお上であるという理由で賠償責任を負わないのは、憲法にもとるとまで認識されていたことを明らかにする論文を執筆した。この点を明瞭に指摘するのは日本で初めてである。
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