第1に、EU競争法の分権的適用に関する従来の理論を、(1)ドイツ競争制限禁止法の枠組みから見た分権的適用の可能性、(2)EU競争法の分権的適用に関するEC委員会のこれまでの見解、(3)連邦カルテル庁によるEC条約81条及び82条の分権的適用に関わる事例の分析、(4)ヨーロッパ裁判所によるEC条約81条及び82条の分権的適用に関する事例の分析という視点から考察したが、現時点においては、補完性原則の強調に伴い、概ねEU競争法の分権的適用を積極的に取り扱う方向で議論が為されていることが認識され得た。第2に、分権的適用を認めた場合の法的問題点を、上記の考察結果と補完性原則の理論的検討を踏まえ、(1)統一した法適用の維持に関する一般的問題点、(2)カルテルの適用免除に関する統一した法適用の維持の可能性、(3)企業結合規制に関する統一した法適用の維持の可能性、(4)カルテル規制規則(理事会規則第17号)の改正案の方向性という視点から検討を加えた。特に(4)の分析を通して、これまでの競争制限的な協定の届出・認可制度を廃止して、「法律による例外」の制度に移行することによりカルテルの事前規制から事後規制に改めること、EC委員会の適用免除に関する専属的管轄権を廃止し、構成国の競争当局(裁判所)による第八一条三項の直接適用を可能にすること、そして「受諾決定」を新たに導入することなどが委員会によって提案されており、EU競争法の基本原則に関わる問題であるとして、ドイツでは今も激しく議論されていることが分かった。分権的適用の必要性とEU競争法の統一的適用の確保という要請を具体的にどのように図っていくのかの問題がEU競争法規則改正の動きの中で重大な論点のひとつになっており、新たに導入されようとしている「受諾決定」などの委員会による措置に関する問題を具体的に考察した。尚、その研究の成果の一部は公表予定であるので、内容は省略する。
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