EU競争法の分権的適用のための理論的枠組を、EC委員会によるカルテル規制規則改正案をも分析し、追究してきた。同改正案は昨年12月16日にEU理事会により採択されたが、その主な内容は、従来の競争制限的な協定の届出・認可制度を廃止し、「法律による例外」の制度に移行することによりカルテルの事前規制から事後規制に改めること、EC委員会の適用免除に関する専属的管轄権を廃止し、構成国の競争当局(裁判所)による第81条3項の直接適用を可能にすること等であり、EC委員会はEU競争法の構成国による分権的適用の拡大をカルテル規制規則の改正によって推し進めようとしている。しかし、その内容については今もドイツから批判されており、分権的適用のための理論的手続的枠組の具体的な在り方については見解の一致をまだ見ていない法状況である。特にカルテルの適用免除制度の在り方に関しては、ドイツは従前の事前届出・認可制の維持を主張しており、それに対してEC委員会は「法律による例外」の制度の採用と一括適用免除規則の整備・拡大を提唱している。一般的に言って、EU競争法の統一的適用を確保しつつ、構成国による分権的な適用を推進すべき点では見解は一致しているが、その要請に具体的にどのように応えるのかについては見解が分かれている状況である。しかし、それにも拘わらず、水平的ないし垂直的な競争制限に関する各種・各類型の一括適用免除規則の改正がこの間既に行われてきており、そのことを通して「法律による例外」の体系が実質的には形成され始めていたのであり、その上での今回の規則改正案の採択であったのである。したがって、この間改正された各種一括適用免除規則の実際的理論的分析に基づき、EU競争法改革の動きをさらに考察することが、EU競争法の分権的適用のための理論的枠組を追究する上で不可欠であることが明確となった。
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