近年のタイの労働立法は、1998年の労働保護法に見られるように、ILO基準との整合性を図ることに目的のひとつがあり、その意味で、国際標準化が進んでいるといえる。しかし、それは労働保護法の分野について言えることであって、労働団体法の場合には、必ずしも同様の方向に向かっているとは言えない。その大きな要因は、グローバリゼーションである。つまり、グローバリゼーションの下で力量を付けてきた企業家層が労働組合に親和的ではない態度を取る傾向が認められるからである。 では、労働法改革はどのような方向に向かうのか。1997年の通貨危機の経験を通じて、再度、伝統的な規範の評価が認められる。しかし、それは開発法への回帰ではなく、協調的労使関係への回帰であるように思われる。その装置が労働関係法改正草案が新たに定めた合同協議委員会である。また、分散的で弱小な組織ではなく、企業自体が大きくなっている条件の下で、むしろ交渉や協議を通じた労使関係の方が合理的だと考えられつつあるように思われる。さらに紛争解決手続を一層丁寧に規定しようとしている。しかし、これだけでは不十分である。三者構成機関は、上記のように協調的労使関係のための装置であったが、他方で、機関の代表選挙が一組合一票方式のため労働組合を少数乱立させる役割も果たしてきた。これらも同時に改革することなしには、上記の政策目標は達成しがたいと思われる。
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