本年度研究計画は、3つの段階を予定していた。 第1段階は、研究代表者が80年代末に行った両罰規定解釈論を基とする組織体刑事責任論研究以降の両罰規定解釈論並びに組織体刑事責任論の展開を、同期間中に示された判例等も追いつつ纏め、批判的に総括することを目標とした。両罰規定解釈論の展開については、最高裁判所平成9年10月7日判決を契機に、税法等における解釈の独自性を-立法趣旨等を援用しつつ-強調する有力な立場が見受けられることを確認した上、その理論学的問題点を明らかにし、また、そのような立場は、個人責任類似構成か客観責任構成のいずれかを試みる近時の組織体刑事責任論の展開方向とは無縁なものであることを確認した。この点については、早急にペーパーにして公表する予定である。組織体刑事責任論の展開としては、近時の動向の継続と刑罰論・制裁論での動きに注目すべきものがあることが確認された。 第2段階は、90年代以降の我が国で行われた組織体刑事責任論の比較法的研究を手掛に、アメリカ合衆国、ドイツ、フランス等の理論状況を分析し、第1段階で明らかにされる我が国の理論状況の前提的視座や法的擬制との相違とその認識の程度等に基づく成果の利用可能性を検討することを目標とした。各国いずれも着実な理論学的展開が見られるが、ドイツでの意思決定機関の構成員の刑事責任に関する理論学的研究に注目すべきところがある他、特にアメリカに関しては、組織的責任論自体に対する実効性等の観点からの批判が再び強まっていること、反論を通じた新たな理論展開が見られること等、相変わらず反面教師として注目すべき動向が確認された。なお継続的検討を要するが、その中から利用可能な視座が見出されるように思われる。 第3段階は、来年度に行う研究の謂わば準備として、オーストラリア、ニュージーランド等における組織体刑事責任に関する実定法の調査・研究、基本的文献における理論状況の学習等を行うことを目標とした。予期に反して、資料等の検索・入手等に手間取り、十分な調査・学習を果たし得なかったが、これらの国を研究する主目的である国家機関の刑事責任の問題については、第2段階の研究でも一応の成果を上げることができ、これに基づくペーパーが近時公刊される予定である。
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