ポストモダン理論と言われるものは多数あるが、言語・記号学を用いる理論とカオスを基調とする理論の2つに大別される。記号学的研究は、主としてフランスの精神分析家であるラカンの著作を利用し、リアリティーを人々が世界を理解する主観的な方法として定義づける。理解は主として言語の概念とメタファーによって形成され、人の社会における役割と地位はその社会の言語概念によって組み立てられる。同様に、刑事司法システムのリアリティーは刑事司法システムの活動に本質的なメタファーと言語概念によって創造される。被疑者・被告人は、悪が犯罪と、不合理が犯罪性と、善が訴追とそれぞれ結合されることによって、法過程において本質的に恵まれない境遇に置かれる。法的構造・概念を主観的リアリティーとして捉えることにより、犯罪、とりわけ犯罪に対する反作用の構造に関する理解が深まる。しかしながら、大部分の批判理論の場合と同様に、主流派の犯罪学がこれらのポストモダンの考えを組み入れる可能性はほとんどあり得ない。 いま一つの形態のポストモダン理論は、台頭し始めたばかりで、ある意味において、主流派犯罪学に影響を及ぼす可能性がある。なぜなら、カオス理論は根本的に異なる世界観を提示するものの、急進的・批判的理論の古臭い考えを継承していないからである。カオス理論はコンフリクト/コンセンサス論争には関心を示さない。この考え方は複雑系理論(complexity theory)とも呼ばれる。その考え方の概略は、高度に複雑なシステムは単純で線形的な分析においてモデル化することは困難であり、数百、数千の変数の相互作用を静的に分析することはほとんど価値が無い。カオス的システムは非線形的でダイナミックなリアリティーの表象である。したがって、1つの学問領域から導き出された変数だけでは不十分であり、多学問領域モデル(multidisciplinary models)が必要不可欠である。
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