本年度は、主として次のような具体的課題に取り組んだ。 (1)少年の実名報道について名誉毀損・プライバシー侵害の成否が争われ、下級審で損害賠償請求が容認された後、現在は最高裁判所に訴訟係属中の「週刊文春事件」をめぐって、記録などを検討し、弁護団会議にオブザーバー参加するなどして、少年事件の実名報道を規制する法理についてケース・スタディを行った。事件の重大性にかかわらず、少年の場合、氏名、顔写真などの本人特定事実が「公共の事実」に当たることはなく、したがって名誉毀損・プライバシー侵害が正当化されることはない、との私見を補強することができた。 (2)改正少年法の運用と関連させて、家庭裁判所から刑事処分相当・逆送された少年事件の刑事公判手続について、公開の問題を中心に、どのような運用がなされ、そのような問題が生じているか、事件担当の弁護士からの聞き取り、事件記録の検討などから解明を試みた。このような実態調査をベースにして、憲法の公開原則の趣旨を損なわない限りでの運用上の「工夫」の可能性について検討した。現行法上も、傍聴席との遮蔽措置、一時的公開停止、期日外尋問の活用などの可能性があることが明らかとなった。 (3)少年審判の非公開、少年の公開刑事裁判、少年の実名報道の禁止についてのアメリカ法の動向を、厳罰政策への極端な傾斜というアメリカ少年司法全体の動向のなかに位置づけたうえで、その意義を明らかにする必要があると考え、そのための理論的検討を進めた。
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