本研究課題の目標は二つである。第一に、冷戦の終焉後の核戦略をめぐる議論および核軍縮にかんする国際社会の動向を踏まえた上で、幾つかの武器禁止レジームの比較を通じて、核不拡散レジームの特徴を明らかにすることである。第二に、核兵器の全廃は、どのような条件で可能であるのかを明らかにすることである。 第一の課題に関しては、以下を明らかにした。(1)核兵器は防御不能の究極の兵器として、世界の核兵器保有国は、自国の安全保障上の要と位置づけていること、(1)核抑止論の下、核兵器は、「平和を維持するための究極の兵器」と位置づけられていること、(2)核不拡散レジームは、核兵器の廃絶を目指すものではなく、核兵器の不拡散をめざすにすぎない、などである。 核兵器廃絶のための条件を探るという第二の研究目的に対しては、以下の点を明らかにした。第一に、核兵器の廃絶への道を考察するに当たっては、核抑止論および核抑止信仰を再検討し、批判を加えることが必要であるということである。本研究では、核抑止論の基本的前提に対して、論理的にも、実証的にも、いろいろな角度から反証を提示し、批判を加えた。第二に、核兵器の廃絶に関しては、既に、様々な政策案が存在し、そのうちのいくつは、実際に試みられていることを明らかにした。即ち、既存の核不拡散レジームに代え、たとえ核兵器保有国が参加しなくても、普遍的な核兵器禁止レジームを形成するという案のもつ国際政治上の意義を明らかにした。また実際的アプローチとして、核兵器限定論を取り上げ、特に「仮想核兵器庫」という考えの利点を明らかにした。第三に、核兵器廃絶のためには、既存の核抑止にかわる国際平和の代替案だけではなく、国際社会において、米国等の主要国が核廃絶のためのイニシャチブをとるような政治的条件が熟成するかどうかが重要であることを明らかにした。
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