研究課題/領域番号 |
13620080
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小川 有美 千葉大学, 法経学部, 助教授 (70241932)
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研究分担者 |
網谷 龍介 神戸大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (40251433)
中山 洋平 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 助教授 (90242065)
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キーワード | 社会組織資本 / パットナム / ガヴァナンス / EU / 民主化 / 宗教的組織 |
研究概要 |
本研究は1990年代のパットナム(Robert D.Putnam)の著作によって政治学の新しい重要概念となった社会組織資本(social capital)の方法論・問題設定に注目し、EU統合と社会の多文化化により「大転換」を遂げつっあるヨーロッパの政治・社会・国家の多国間・多層的(muliti-level)な比較分析を試みたものである。 本研究の成果として得られた知見は、第一に方法論的なものである。パットナムの社会組織資本研究は、アメリカ民主主義の「原型」の衰退に関する懸念を反映して、健全な共同体社会が健全な制度・経済の土台となるという、単線的な世界観をとっていた。この結論は、ヨーロッパ諸国の多層的な観察によって修正・補完される。ヨーロッパの文脈では(1)社会(組織)資本のみならず、(2)政治資本(政党組織やサブカルチャー)そして(3)制度資本(新ハンチントン派(neo-Huntingtonian)的観点ともいうべき、福祉国家や公的制度への信頼の重要性)の三つの次元が、いずれも基盤的かつ相互依存的な歴史的関係を示している。第二の成果は、帰納的諸知見である。ドイツでは社会組織を政治に組み込む規範的伝統があり、それが現在のEUの「調整」型ガヴァナンスに再生されている(網谷2002論文)。宗教的組織化の強弱は、社会動員のみならず、官僚制の浸透や福祉国家化(制度)との歴史的相互作用の結果としてはじめて説明される(中山2002論文)。南欧の民主化国家では、「ヨーロッパ化」による民主主義・市民社会への影響は現実には「両義的」であり、国民議会の財政主権の浸食や反システム感情の潜在的増大が観察される。さらにEUレベルで、必ずしも民主化を再強化する社会組織資本さらには政治資本が形成される保障はない。一国福祉国家の堀崩しは北欧でも排外的政党を生み、移民・女性など社会(運動)グループのもつ資源の格差は、今のところ是正される見通しがないからである(小川2001,2003論文)。
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