(1)研究初年度に当たる本年は、まず、研究全体の出発点を成す作業として、リベラル第二世代の具体的な権利要求が、90年代中葉以降いかなる変遷を遂げたかを、公教育における少数派言語・宗教の取り入れや、性差別的言語表現の排除要求、少数派の集住地保護の要求等、具体的権利類型に即して整理した。その結果、1)こうした多様な権利要求は、従来専ら集団的な権利として理解されてきたが、そこには、言語使用権のように、より個人的な権利も存在すること、2)他方、これら諸権利を、より具体的な政策的要求に変換する際にも、その論者の置かれた状況の多様性に応じて、同一の権利概念が、極めて多様な政策要求を帰結し得ること、3)そうした「少数派の権利」概念の多様性を考慮すれば、それら多様な諸権利を、一個の「少数派の権利」概念の下に包括するためには、その少数派文化擁護と言う実践的目的との関連が、個別具体的に問われざるを得ないこと、などの重要な知見が新たに判明した。 (2)次に、本年は、第二世代リベラルの議論に対して、90年代中葉以降、第二世代リベラル外部から提起された諸批判を、(1)リベラル第一世代(2)共同体論(3)完全自由主義(4)ポストモダン、という四類型に整理し、論者相互の議論の応酬を多面的に比較した。その結果、1)リベラル第一世代と第二世代の間には、リベラル第二世代の議論が、第一世代の議論の潜在的可能性を利用したものであるという点で、一定の重なりが見られること、2)共同体論・ポストモダンの議論は、一見少数派擁護という第二世代リベラルの目的と整合性を有しているものの、両者は、権利概念の有用性を否定するという点で、第二世代リベラルと決定的に異なること、3)完全自由主義と第二世代リベラルの間には、いわゆる脱出権の問題で見解の相違が見られること、などの重要な知見が得られた。
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