1)研究第二年度に当たる本年は、第二世代リベラルの二大勢力間で活発化した、より内部的な論争としての、フェミニズムと多文化主義の両立可能性を巡る論争を主たる素材として、「少数派の権利」概念が内包する両義性や緊張関係に関して考察を進めた。具体的には、多文化主義論者が擁護する少数派民族の社会規範は、女性の教育機会の制限や、聖職等一定の職業への社会的進出の否定、一夫多妻制の容認等、性差別的な内容を多く含むとする、オキンらフェミニストの議論と、それに対するキムリカら多文化主義者との応酬を主たる手掛かりとして、双方の議論の構造について、可能な限り網羅的な分析を行った。その結果、本研究では、(1)多文化主義的な主張を行う集団の一部には、確かに、女性の権利を制限する主張を行う集団が存在し、その点で、フェミニスト側の主張には一定の根拠が存在すること、(2)しかし、他方、多文化主義の主張は、そうした反フェミニズム的なものに全て回収されるわけではないこと、(3)こうした両者の主張を架橋する概念として、社会的平等の概念が重要であり、近年のアメリカでは、フェミニズム・多文化主義双方の主張を、平等化の一般理論に包摂する研究が進められていること、等の新たな知見が得られた。 2)同時に、本年は、こうしたリベラリズム第二世代の新たな諸議論に対する、リベラル第一世代からの議論の応酬関係に関しても、包括的な分析を行った。その結果、本研究では、(1)こうしたリベラル第二世代が展開した、多元的な集団共存の問題群は、リベラリズム論争の先行する諸論者、とりわけリベラリズム論第一世代の諸論者の近年の変化に、極めて大きな影響を及ぼしていること(2)こうしたリベラリズム内部の議論の傾向は、アメリカの哲学・社会学等、隣接諸科学における近年の動向に、従来想定されていた以上に強く規定されている、等の新たな知見が得られた。
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