(1)研究最終年度に当たる本年は、「リベラリズム論争」に対する、政治思想史上の位置付けを解明するため、その諸議論、とりわけ政治的アイデンティティー論・権利論の内容を、第一次大戦後の少数民族の割拠状態を前に、同様の集合的権利論が提起された、大戦間期における、アメリカリベラル、及び、イギリスを中心とする、ヨーロッパリベラルを巡る論争状況と比較した。その結果、本研究では、1)これらアメリカ・イギリスの歴史的議論は、今日のリベラリズム論争においても、「少数派の権利」論の主要な歴史的源泉として、重要な役割を果たしており、2)とりわけそうした議論の中心人物としてのマーシャルらの市民権理論に対しては、今日のリベラリズムから重要な再評価の動きがある、という新たな知見が得られた。 (2)同時に、本年度は、「リベラリズム論争」の諸成果の、日本社会に対する適用可能性を解明するため、今日の日本におけるリベラリズム研究の現状を、体系的に整理するとともに、そこでの議論の特質を、従来の研究で析出された、アメリカ・ヨーロッパにおける議論と比較し、論争の諸成果のうち日本にも普遍化可能な部分を考察した。その結果、本研究では、1)現時点の日本リベラリズム研究においては、アメリカ・イギリスと比較して、「少数派の権利理論」に対する関心は相対的に低い状況に留まっているが、2)例えば、近年の構造改革論などを背景とした新たなリベラリズム論の諸系譜が、主としてナショナリズム論に対する関心を背景として、少数派文化や政治的アイデンティティー等の諸問題への新たな関心を示しつつあり、その結果日本においても、欧米流の「少数派権利」論に対して、従来以上のより大きな関心が生じる可能性が少なからず存在する、等の新たな知見が得られた。
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