今年度は、アルゼンチンのメネム政権(1989-99)の新自由主義政策に対する労働側の反対運動を実証する作業を進めた。その際、労働運動が90年代に入って弱体化したことを確認しておくことが不可欠と思い、他の国々の事例を含めて、ラテンアメリカにおける90年代の労働運動の政治力低下のプロセスを論文としてまとめた。しかしながら、低下したとはいえ、労働運動の政治力が完全に消え去った訳ではなく、とくに第二期メネム政権(1995-99)期には、カトリック教会の支援を得たCGT(労働総同盟)は、余後効の廃止を含む労働法改正に頑強に抵抗し、改正を事実上骨抜きにするのに成功したのだった。このことは、労働の政治力の意義を物語っており、また、ネオポピュリズムとしてメネム政権を理解する際に、労働側の主体性を無視すべきでないことを示唆している。この点もラテンアメリカにおける古典的ポピュリズムとネオポピュリズムに関する論文の中で論じておいた。このように、労働側とカトリック教会の連携は、労働法の改正問題で一定の意義をもったが、90年代後半において、労働側が強く抵抗した健康保険の改正問題では、カトリック教会の態度はより中立的であった。その意味で、労働とカトリック教会との連携は、新自由主義政策すべてに関わった訳ではなく、選択的であった。また、カトリック教会のなかには、CGTなどの労働中央組織との結びつきよりは、失業者の運動を支援を重視するものもあり、他方労働側でもカトリック教会との協力に積極的なグループと反対派に分かれるなど、両者の関係は極めて複雑であった。ただし、そうした関係の多様性にもかかわらず、両勢力が協力して反対の姿勢をとったことが新自由主義政策の進展に一定の歯止めをかけたことは本研究において実証できたと思っている。
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