本研究の主たる目的は、94年に導入された新しい選挙制度、とりわけ小選挙区制が日本における政党間競争に与える影響と、そこからうまれる圧力が政党システムの変容にどのように作用するかを分析することである。その際、小選挙区制を採用しているイギリスなどの状況や、日本と同じような選挙制度を採用したイタリアなど外国の事例も参考にした。 本研究では、選挙区ごとの有効投票者数や候補者全員の得票数などを全てエクセル形式でデータベース化し、過去2回の総選挙における競争パターンの変化、選挙区特性、重複立候補制の影響などについて分析した。 その結果、小選挙区制のもとでは2党制化圧力が働くというデュヴェルジェの法則は、選挙区レベルではそれなりに働いていた。実質的な競争が3党以上の政党によって行われた小選挙区は96年選挙でも全体の1割に満たず、2000年選挙になるとさらに数が少なくなった。多くの選挙区では、第3位以下の候補は、上位2者の戦いにはじき飛ばされてしまっている。 しかし、それがストレートに自民党による1党優位体制の復活を意味するまでには至っていないことも同時に明らかとなった。そもそもマクロなレベルでみても自民党は前回総選挙と比べて支持を全く増やしていない。今回の制度改正で農村部の過剰代表はかなり改善されて、都市型、大都市型の選挙区の割合が中選挙区制時代よりもかなり大きくなった。接戦になった選挙区はこれら都市型、大都市型選挙区に多い。参議院選挙における独自のダイナミズムも考え合わせると、自民党による新しい1党優位性という方向性は、実際にはまだ表面的なものに過ぎない。 しかも、近年における諸外国の経験を分析するなら、選挙制度が政党システムを規定する力に限界があることも明らかである。比例代表制がもつ多党制効果もある。こうした点を考え合わせると、日本の政党システムは少し不安定な多党制の時期を経過し、個々の政党や政治家というよりも、システムそのものに対する有権者の不信感も今後しばらく続くことになるだろう。今回の選挙制度改革は、確かに政党間競争に影響を与えはしたが、それは新制度に期待されていた2大政党化の方向というより、今のところ穏健だが不安定な多党制を導き出しているというのが本研究から得られた結論である。
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